moon 感想



おやめください!勇者様!



もう勇者しない

のセリフが有名らしかったゲーム。その名もmoon。
1997年にプレイステーション1用に発売されたゲームで今となってはもはや化石のようなゲーム。
しかしこのゲーム、昔からゲーマーの間では「神ゲー」として名高く、心温まるゲームとして有名でした。
最近までは遊ぶにもPS1とこのソフトを持っていなければ遊ぶことの出来なかったためソフト自体が凄まじいプレミア価格となっており
手に入れるのも遊ぶのもとにかくハードルの高かったゲームだったのですが・・・。最近になってSwitchとSteamにそれぞれ移植され
気軽に遊ぶことが出来るようになったとのことで遊んできました。
色々言いたい事もあったので少し感想を残すことにしたのですが例によってネタバレ前提のページとなっています。

が、OMORIとかと違ってこのゲーム。とにかく今となってはシステムが古く普通に遊んでいてストレス感じる部分も多く
これまで紹介した他のゲームのように「未プレイの人はまずはここから買って遊んで!!」とはあまり言えない出来だと思っているので
今回はmoonを知らない人でもそのまま読んでもらっていいと思います。多分今知らない人はこの先知ることは少ないでしょうし知ったとしても多分遊ぶこともないと思っています。

とはいえ、moonというゲームを知ってはいて遊んだことはないけどsteamやSwitchで出たのなら遊んでみたい と思っているっていう人がいたら遊び終わったらまたこのページに戻って頂ければかと思います。


ちなみにSteamでのmoonのバナーがこんな感じ。




いやぁ、絵柄は今の時代これはきついっす。(遊んだ後はこのキャラクター達を見てまぁまぁ思い出もあって味もあるなとは想えるのですが。

以下ネタバレページ。


























































■moonってどういうゲーム?

まず初めにmoonってどういうゲーム?って所から振り返ってみたいと思います。(特に今回はプレイしてない人も見る事多いと思うので。

ジャンルはアンチRPG。・・・聞いたことないジャンルですね。
主人公は10才くらいの少年で、ある時 moon というゲームを遊びます。内容はほぼファミコンのドラクエのような感じのゲームで甲冑を身にまとった勇者を操作して魔物を倒し、最後にはドラゴンを倒すのが目的のゲームです。
しかしそのゲームを遊んでいたらいきなりテレビの画面の中に吸い込まれてしまいmoonのゲームの世界の中に入ってしまいます。
その世界にはさっき自分が操作していた勇者も存在していてあちこちで魔物を倒しまわっています。しかしその世界の中を歩き回っていると次第にこの世界の事情が見え始めてきます。
魔物は何も人間に仇名す事はしていなくただ平穏に生きているだけなのに勇者は魔物を経験値のために惨殺し、そして当たり前のように人の家に上がって引き出しの中を漁って持って行ったりするので住人からすれば立派な泥棒で腹を立てている事が分かります。

ある時主人公は夢の中で月の女王に出会いラブを集めるように言われます。困っている人を助けてあげたり良い思いをさせてあげること。そうすることでラブが集まる。
その他にも、主人公には特殊な力を1つ持っており勇者に殺された魔物の魂に触れる事で生き返らせることができます。何も悪い事をしていない罪なきモンスターを救済することでもラブを集めることが出来ます。
そうして主人公はラブを集める旅に出かける・・・っというのが大筋のシナリオになります。



それもラブ。これもラブ。
失くした指輪を見つけてあげて持ち主に届けてあげる。それもラブ。
夜中に眠ってる可愛いお姉ちゃんの寝顔を覗いたらそれを見たおばちゃんに叱られるこれも(何故か)ラブです。

←叱られてラブをゲット。ラブとは?



■当時は多分核心的だった曜日と時間の概念。

このゲームはとにかく「ゲームのキャラだって生きているんだ」というのをプレイヤーに一生懸命伝えてこようとしてきます。
ゲーム内には現実と同様に24時間と曜日の概念があり、皆それぞれのスケジュールに沿って行動しています。
例えばお城を守る兵士は昼間は出入り口を見張り、夜になれば寝るという基本的な行動を取っていますが一部の曜日では仕事終わりにバーによって飲みにいったりします。
他にも木曜日のこの時間の時にだけとある用事で出かけたり他のキャラとキャラが密会をしたりなど各々の生活リズムに沿って行動しています。
この時間と曜日の概念は少しムジュラの仮面を思い起こさせる所があります。

ラブを手に入れるためには住民の悩み事や秘密を探る必要があるのですが普段見せない側面を見るためにはその住人の一週間のスケジュール、行動を把握する必要があります。
大抵は他の住人との噂話の中で「あの人は木曜日だけバーに行く」などヒントがあるためその曜日が近づいたら張り込むなどでもいいのですが場合によってはノーヒントな奴もいるため一週間張り込みが求められるなど面倒な奴もいます。
でも一日、一週間、その世界でこのゲームキャラはここで生きているんだっていうのを感じさせられます。どうぶつの森の住民みたいな感じですね。

時間と曜日の概念なんて今では当たり前のような気もしますが当時こういう要素は私の知る限りPS1の時代では存在していなかったと思っており(64版どうぶつの森とポケモン金・銀の登場でやっと身近なものになってきたイメージ)それをいち早く取り入れたmoonは当時のゲーマーからすれば斬新なシステムだと思ったのではないでしょうか。


魔物の蘇生にも特定の曜日や昼夜どちらかのタイミングでないと出会えないなどの要素がありどうすれば救出できるか頭を悩ませ続けることになる。
画像は救出に成功してラブをゲットした様子。


■ドラクエ旋風で定着した「勇者」という存在に一石を投じる

ちょうどこのmoonが発売された時の日本はドラクエ旋風が巻き起こった後の時代で、ドラクエの後に続こうと色んなメーカーが「勇者 vs 魔王」といった構図のゲームを出していました。
ゼルダの伝説やドラクエなどでも当時は当たり前のように人の家に上がり込んではタンスを漁ったりツボを壊して何か手に入らないか漁っていたかと思います。
2022年の今、流石にこういった行動は現代のゲームの中では中々見られなくなってきましたし仮にできたとしても怒られる事が増えてゲームの中にも一定の論理感という物が形成されたように思えます。が、当時の時代はゲームに論理感なんてなく、むしろ勇者が他人の家にあるツボを割ったりタンスを漁ったりするのは当たり前のことでその事の行動に疑問を持つ人はいませんでした。
というのも結局その行動は所詮ゲームの中の行動であってゲームのキャラクターに配慮する必要なんてのは微塵もなかったからです。

しかしmoonではそういった勇者の「当たり前」に一石を投じます。
住人は勝手に部屋に上がり込む勇者に苦言を呈し、何も言わずにタンスに入っていたものを盗んでいく勇者に怒ります。他にも少年がゲームを遊んでいた時では「狂った犬」と記載されていた魔物のような生物も実際はただの犬にすぎませんでした。
これまでプレイヤー目線でしか語られる事のなかった勇者像に対しmoonでは「もしゲームの世界の住人にも命があって生活してたら普通怒るよね」っていうのをプレイヤーに投げかけています。
これが当時では本当に珍しかった視点でそれゆえにmoonは名作として後年に言い伝えられるようになったのだと思います。


■遊びづらいシステムと異様な待ち時間

流石に昔のゲームということもあり2022年を生きる人間が今このゲームを遊ぶと古すぎるシステムに正直苛立ちを覚える部分は数多くあります。
アイテムを一度にまとめて購入することが出来ない、住人の行動を把握するためにひたすらコントローラーを置いて待ち続ける、ゲーム内のヒントが足りなさ過ぎて攻略ページ見ないと分からない仕掛け。
正直システム面に関してはお世辞にも当時の時代を考えても洗練されてるとは言えないと思いました。特にアイテムの購入に関しては本当に苛立ちを覚えた。


釣り餌を買う場面。店員に話しかける→「いらっしゃい、何をする?」→賞品を選ぶ→「まいど」→アイテムゲット→繰り返し。
謎のウェイトがあるため消費の激しい釣り餌を10個くらい買おうとすると3それだけで3分くらいかかったりする。


時間と曜日の概念の項目で伝えた住人の一週間のスケジュールについても、攻略の都合上張り付いて観察する機会が非常に多いのですが時間を早回しする事が出来ないため場合によっては5分、10分何もせずにず〜〜〜〜っと張り付かなければいけなかったり暇な時間が多すぎるのも問題でした。昔よりもっと忙しくなった現代社会人においてこの待ち時間はあまりにもイライラが募ります。ムジュラの仮面のようにせめて時間をスキップ出来る機能があればよかったんですが・・・

トドメに昔のゲームらしい高難易度っぷり。メインシナリオを進めるために月へ向かうロケットを組み立てる必要があるのですが、その組み立てに必要なロケットのパーツの入手場所が完全ノーヒント。しかもえげつない難易度。
これ当時攻略本なしに全部見つけられた人は果たしていたのか?と疑問に思うレベルです。

これ以外にも攻略ページなしでは進められないレベルで難しい場所も多く、ヒントがそもそもヒントにになっていなくて何をすれば先に進められるようになるのか全く分からない場面が多々ありました。
時代的にある程度は仕方がない部分もあるとは思うのではロケットのパーツ集めに関してはちょっと度を越しているような・・・・。



こっちが脳みそ解けるわ。



■時代を先取りしたストーリー

moonというゲームのシナリオは最終的にどのような結末を迎えるのか。
ラブを沢山集めた主人公は最後にはロケットに乗って月へとたどり着きます。そこには夢の中でラブを集めるよう言ってきた月の女王が住んでいるのですが、同時に勇者が最後に倒すべくドラゴンも存在している場所でした。
月の女王はこの世界がゲームという作られた世界であることを理解しており、地上に住む人物たちは基盤と呼ばれるプログラムに沿って行動している(させられている)事を知っていました。


↑地上に住む住民達の基盤。現代で言うところのプログラム。

しかし月の女王は基盤(プログラム)の束縛から解放しゲームのキャラ達に真の自由を与える術を知っていると言います。それは「扉を開ける事」と言います。
その扉は月にあり、ラブを集めた主人公ならば開けると言われますが押せども蹴れども扉はびくともせず開ける事が出来ませんでした。
そうこうしているうちに月に勇者が到着し月の女王(と一体化しているドラゴン)を倒しにやってきます。



月の女王が基盤を読み解いてプログラムの束縛から逃れようと奮闘する事自体がプログラムによって定められていた事であり、扉が開かなかったのも勇者が月までたどり着いてしまうのも結局既に決まった道を辿っていただけにすぎなかった事を月の女王は最後の最後に知り絶望します。
しかし最後にそれを知ったからこそ打開する方法が1つあることを月の女王は悟り、改めて主人公に扉をあけるよう伝えて最後に勇者に斬られて死亡します。
最後には主人公も勇者に斬られて死亡し、そして勇者もまたプログラムを遂行し終えた事でその場で崩れ落ちて消えていなくなります。

しかしそこで突如主人公は現実の世界へ戻ります。

映し出されたコンテニュー画面。迎えた結末はバッドエンドのように思え、月にあった扉を今度こそ開けるべく「YES」を選択して再度チャレンジすることが正しいように思えます。
しかし真に選択すべきは実は「NO」であり、ゲームをやめて外に出る事。それこそが月の女王が最後に伝えた「扉を開く事」の本当の意味でした。
これは完全にメタ的な意味で、主人公がゲームを遊ばなければmoonという世界に勇者は存在しようがなく、moonというゲームをしない=プログラムが実行されることがない→住人は束縛から解放されるという事でした。

これがまさにキャッチフレーズであった 「もう勇者しない」 の意味だったということになります。

今でこそリアルに第四の壁を突破してくるゲームはいっぱい増えましたがこれまた当時非常に珍しい時代を先取したシナリオだと思います。
むしろ、ゲームキャラクターは結局プログラム上の存在であるという所にまで踏み込んでいるのは今でもかなり珍しい・・というか世界を救うべく本当にやることはゲームをやめることというこのレベルのメタに踏み込んでいるのは今でも珍しいと思います。Uから始まる地獄の業火に焼かれるゲームとかOから始まる電球ゲーとか最後にはゲームをやめる事で完結する作品もいくつかありますが2010年を過ぎて登場した作品たちでましてや1990年代にこのようなゲームが存在していたのは驚愕的です。だからこそ1997年当時、このゲームを遊んだゲーマーたちを震撼させいつまでも記憶に残るゲームとなり名作として後世に伝えられてきたのだと思います。実際私も遊んでいた時は詳しいストーリーを知らずにこのエンディングを見たために「はえ〜〜凄い面白いんごね」という気持ちになりました。問題なのは攻略サイト見ないとマジでエンディングにたどり着けないレベルで難しいから当時このエンディングまで見れた人は果たしてどれだけいたのかっていう疑問が残りますが。



■まとめ

もう勇者しない。それはゲーム内での行動に大して論理感を問いかける一種の哲学にも取れるどこかほんのり暖かい気持ちにもしてくれる不思議なゲームでした。
流石に昔のゲームということもあって移動速度が遅かったり買い物のテンポが悪すぎてイライラしたり待ち時間が多すぎたりと快適性に関しては現代のゲームと比較して劣ってる部分もかなり多いのですがシナリオについては現代のゲームと比較しても引けを取らないどころがまだ一歩先を進んでいると思います。
まぁ神ゲーかと言われると個人的には良作判定程度に落ち着くかなと感じていますが、ゲームの常識の裏を取る、メタ的なシナリオのゲームはもっともっと増えて欲しいですね。遊んでいて楽しい。




といったところでmoonの感想は以上です。お疲れ様でした。





おまけ




はい(


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